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この特集は、相馬直樹によるサッカーの特集です。日本代表DFとしても活躍した相馬氏ならではの視点、切り口によるW杯の試合をはじめ、国内Jリーグなど国内外の試合レポート、見どころなどをお届けします。
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サッカー特集by相馬直樹

決して消化試合なんかじゃない ~川崎vs鹿島~

 昨日のJリーグ第33節川崎フロンターレvs鹿島アントラーズ戦を見に行ってきた。今回は観戦ということだけでなく、目的が他にもあったため、細かく試合を見ることは出来なかったのだが、全体的な流れと気になった点などを中心にレポートしよう。

 川崎のスタメンはGK吉原(No.1)、3バックに箕輪(No.5)、寺田(No.13)、伊藤(No.2)。右のアウトサイドには出場停止の森の代わりに飛弾(No.26)、左にマルコン(No.6)、ダブルボランチに中村(No.14)、谷口(No.29)のコンビ。トップ下マギヌン(No.11)に、2トップはジュニーニョ(No.10)と我那覇(No.9)というほぼベストな布陣。対する鹿島はGK曽ヶ端(No.21)、右から内田(No.20)、青木(No.24)、大岩(No.4)、新井場(No.7)の4バック。中盤には中後(No.22)、野沢(No.25)、ファビオ・サントス(No.18)、本山(No.10)の4人、2トップにはアレックス・ミネイロ(No.9)と田代(No.19)のコンビでスタートする。

 前半はどちらかというと鹿島のペース。鹿島が一人ひとりの距離を短くして、非常にコンパクトに戦えていて、川崎は攻め手がなかなかないという状況であった。2トップ(特にアレックス・ミネイロ)の守備への意識も高く、コンパクトにしてボールを奪ったら速く攻めるということがうまく行っていた。そうした流れから21分にアレックス・ミネイロからのパスを、野沢がいかにも野沢らしいループシュートを決めて鹿島が先制する。

 その後もリズムは鹿島。特に中盤での争いで優位に立ち、野沢、本山の二人がスキルフルなプレーを見せて攻撃を引っ張る。しかし川崎も最後の突破を最終ラインがよく止める。サイドを鹿島が人数をかけて崩しにかかるのだが、ウイングバックが外されたあとにカバーに入る3バックのスライドの速さと判断が非常に的確だった。右なら箕輪、左なら伊藤が自分のマークを掴みながらもサイドへの的確なカバーリングをすることで、鹿島の有効なサイドからのチャンスを作らせなかった。新井場、内田がボックス横のゾーンに侵入まではするものの、そこからラストパスをトップにまで送れないということが続いていた。

 すると徐々にペースが川崎に移ってくる。鹿島はそれまでと同様にコンパクトにして川崎の攻撃を迎え撃っていたが、川崎はプレッシャーの薄い両サイド使ってボールを運べるようになっていった。そこで特に効いていたのがマルコンのドリブルだ。彼にボールが入ると、身体をうまく使いながらドリブルで相手陣に入っていく。そうしていい位置でファールを受けて、FKを奪うのだ。ヘディングの強い選手をそろえ、いいキッカーを持つフロンターレにとってはまさにビッグチャンス。さらにそれを意識したアントラーズが徐々に下がり気味になってしまったという意味でも、マルコンのボールを運ぶというドリブルの効果が表れた時間帯であった。

 マルコンはスピードがあるわけではないが、本当に間合いがよく、相手に取りに来させて、身体でスクリーンしてボールを運ぶというのが得意である。昨年まで在籍したアウグストも得意であったが、なかなか日本人選手には見られないボールの持ち方である。実際、ボールを持つ時間が長く、チームとしては流れが止まってしまうといったことも見受けられたりすることもあるのだが、逆にこの日のように、流れが止まった状況を動かしてくれる力にもなるということで、ボールを運ぶというプレーの重要性を再認識させてもらった。

 結局FKからの流れなどを含めた川崎のチャンスも決まらず、鹿島1点リードのまま後半に突入する。鹿島はそのまま逃げ切れると思っていたわけではないだろうが、前半終了間際の悪いイメージのままスタートしてしまったようだった。ラインが下がってしまったのだった。

 最終ラインが下がって一番おいしい思いをしたのは中村だろう。前半、彼に対するマークは相当厳しく、ボールを持てばすぐに囲まれ下げるしかない状況が続いていた。それどころか3人ぐらいに囲まれてボールを奪われてカウンターされるという場面も何度かあった。しかし後半鹿島は、全くというほど中村を掴むことが出来なくなってしまったのだ。その大きな原因はラインが下がり気味になることによって、コンパクトさを出せなくなったことにあった。

 この辺は最終ラインだけの問題ではない。“ラインを上げる”とはよく言われることであるが、ボールへのプレッシャーと最終ラインの上げ幅は連動するものなのである。ボールへのプレッシャーがかかればラインも上げられる。ボールへのプレッシャーがなければラインは下がるしかない。ラインが上がればボールへプレスしやすくなる。ラインが下がると中盤がスカスカになってボールへプレッシャーがかからなくなる。というように表裏一体のものなのである。

 この日は前半ラストのイメージで守備への意識が強くなってしまったこと。前半飛ばしていたことでの疲れの部分。この2つが鹿島の後半のスタートに影響してしまっていた。対する川崎は中村が少し前目にバランスを取る。普通ポジションが前に上がるとプレッシャーがきつくなりゲームをコントロールすることが難しくなるものなのだが、前半よりもギアをひとつあげた中村が相手を引きつけてはボールを前に入れていく、という独特のリズムを発揮する。

 そうした中、川崎が追いつく。右サイド飛弾のスローインをスーッと後ろから上がってきた中村がゴール前に侵入して取った点であったが、鹿島が人についていくことでできたスペースを見逃さず、いいタイミングで入り込んだことがこの得点のポイントであった。

そのとき中村の担当は本山だったのだが、きっと中村にはこんな判断があったはずだ。「自分が走ったら、今マークしてくるのは本山だ。でも本山(守備よりも攻撃したいタイプ)なら遅れるはずだ。」という心理的な読みだ。鹿島とすれば、本山がゴール前までマークするべきだったと片付けてしまうのは簡単だが、後ろの選手に受け渡せるような守備組織を作っておくことが重要なことだったのではないか。それが出来ていれば、あそこで中村にシュートを打たれなかっただろうし、それこそボールを奪ったあと、きっと本山はフリーになっていただろう。そこから本山に、守備でなく攻撃で仕事をしてもらえるようなバランスが欲しかったのではないだろうか。

 追いついた川崎はホームの声援を背にさらに圧力をかける。前半以上に攻める川崎に守る鹿島という流れがはっきりとしてきたが、それでも鹿島は高い技術を武器にカウンターから川崎守備陣を脅かしていた。しかし、62分の田代の退場で大きくプランが崩れてしまう。この退場に関してはいろいろな意見があるかと思うが、あの流れの中で10人になった鹿島は相当厳しくなったというのは間違いない事実であったろう。

 だが、10人になってからも鹿島は数的不利でもボールを前に運んでいく力を持っていた。上手くボールを動かしながら少ない人数でゴール近くまで運んでいく技術。結局、1点を取ることに成功し、最後まで緊張感のある試合にしてくれた。もし生中継をしていたら、あの時間から見始めた人には鹿島が10人であることはあまり分からなかったのではないだろうか。ただし、守ることに関してはもうひとつだったかもしれない。結局ロスタイムに決勝点を奪われてしまったのだが、それ以前に川崎には決めるチャンスがいくつもあった。決定力がなかったからもつれたわけで、10人で上手くしのいでいたとは言い難かった。

 結果、川崎がロスタイムで勝利を掴んだわけであるが、終盤に来て、こうした熱いゲームを見られることは、Jリーグにとってもいい影響を与える。川崎は優勝の目がなくなった直後、鹿島は宙ぶらりんな順位ということを考えても、モチベーション的に難しいゲームであったはずであるが、両チームの選手たちのこの試合にかける気持ちは素晴らしかったと思う。

フロンターレは序盤こそ、優勝争いから脱落してしまったショックが大きいのかなと思わせるような感じがあったが、途中からそれを持ち直す戦いを見せてホーム最終戦を勝利で飾り、この日セレモニーのあったクラブの功労者といっていいMF長橋(No.20)、MF今野(No.18)、MF鬼木(No.7)3人の引退に花を添えることが出来た。鹿島も試合開始からいい立ち上がりを見せ、集中力のある戦いをして、退場者を出しながらも決して消化試合なんかではない、プライドをかけた戦いなんだというところを見せてくれた。サッカーに関わる者として、こうした戦いを見せてくれた選手たち、そしてそれを引き出してくれたサポーターたちに感謝したいと思う。


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