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この特集は、相馬直樹によるサッカーの特集です。日本代表DFとしても活躍した相馬氏ならではの視点、切り口によるW杯の試合をはじめ、国内Jリーグなど国内外の試合レポート、見どころなどをお届けします。
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2006年08月17日
羽生がもたらした”動き” ~vsイエメン戦~オシムジャパン初の公式戦、アジアカップ予選vsイエメン戦を見てきた。2-0で勝利した昨日の試合を振り返ってみよう。 スタメンは前回から若干の入れ替えがあった。予想できた範囲であるが、ガンバ、ジェフの選手が11人の中に名を連ね、何人かの選手がはじき出される形となった。最終ラインの右には加地(No.21)が入り、中盤に阿部(No.30)とJリーグで好調の遠藤(No.4)、FWには巻(No.36)が入った。4-4-2と前回と同じシステムであるものの、中盤の構成が少し変わり、鈴木(啓)(No.55)のワンボランチから阿部と鈴木(啓)のダブルボランチという形にして、攻撃的MFに遠藤とアレックス(No.14)という4-2-2-2といってもいい形で臨んだ。 対するイエメンは5-4-1という守備的なシステム。中央に一人を余らせる形を維持し、ゴール前を固めてきた。攻撃はというと、まったくといっていいほどその意欲は見えなかった。チームとしていかに守りきるか、失点を少なくするかに注力していたといえる。とはいえ選手たちの戦う意志は強く、序盤から激しいタックルを日本に仕掛けてくる。開始早々の加地への危険なタックルを見れば、気持ちの面での集中度がいかに高かったかということが分かるだろう。 そうした相手のゲームプランもあり、試合開始から日本が完全にボールを支配する。完全なハーフコートゲームである。こうなったことには理由がある。前述した相手のゲームプランも関係しているが、それプラス、日本の守りの準備がよかった。ボールを失ったあとの対応が非常に素早かったのである。攻撃に意識が傾く中、その部分に神経を尖らせていたのは二人のボランチ。この試合ではボールを追う役を鈴木(啓)が担当し、阿部が相手前線のマークを担当することが多かったのだが、特に鈴木(啓)のチェイスが素早く、敵からボールをすぐに奪い返すことが多かった。ボール支配率72.1%。尋常ではない数字である。これだけ攻め続けられたひとつの要因に、後ろの選手たちの攻めているときの準備のよさがあったということを挙げておきたい。 実際そこまで引いてしまった相手をこじ開けるのはなかなか難しい。玉砕覚悟で前に出てきてくれれば、イエメンの実力から見るともっとたくさんのゴールが生まれていたと思うが、この日はそうはいかなかった。こういう試合は前半のある程度の時間までに点が取れないと非常に難しくなってしまうものだ。またイエメンは特にゴール前でよく身体を張っていたこともあった。決めるべきところを決めないと、ということはもちろんあるが、そのことは今に始まったことではない。そうした中、結果が大切な公式戦でポイント3を奪ったのだから、ノルマはひとつクリアといっていいだろう。 とはいえ満足できる内容ではなかった。特に前半はボールの動きが悪かった。オシム監督は記者会見の中で「後ろでのボールの動かしが悪く、スピードが上がらなかった。各駅停車のサッカーになっていた。」という趣旨のことをコメントしていた。DFラインでのビルドアップでノッキングする部分もあったし、そこの動かし方が悪かったためにスペースを早くつくことが出来なかったのは確かである。 ただ後ろのビルドアップのリズムの問題以上に、この日は前の方の動き出しの問題もあったような気がする。トリニダード・トバゴ戦では前半30分ぐらいまで非常に運動量のある、前にボールが動いていくサッカーが出来ていた。ひとつのボールへの連動性もあり、期待を抱かせるものであった。それと比べるとこの日の動き出しは明らかに遅かった。相手がべた引きになりスペースがなく、動き出そうにも動き出せない状況であったのだろうが、それをも崩そうとするのがオシム監督のサッカーなのではないか。それが出来なかったあたりが前半無得点であったことと無関係ではないだろう。 その前半気になったのが2人の中盤の位置取りだ。はじめこそアレックス、遠藤が前線まで入っていくプレーが見られた。10分にはトリニダード・トバゴ戦でゴールを上げたときのように、相手のウラで受けようとするプレーがアレックスに見られたりもした。ところが時間が経つにつれてどんどん後ろに戻ってきてしまったのだ。二人ともそのポジションの本職でないことも影響していたと思うが、前線2人が孤立する時間が増えてしまった。巻と田中(達)(No.38)のコンビプレーも少なく、なかなか攻撃に迫力が出ない。後ろのビルドアップがスムーズでないため、ゲームを作りに下がってしまったと思うが、それ以上に前でボールを引き出すプレーをするべきだったように思う。 ただ前半は選手たちにとってかわいそうな部分もあった。ピッチがとてもドライだったのだ。この日新潟はよく晴れて暑かったので、芝が乾いた状態でキックオフを迎えたのである。ドライな状態だとビシッとパスをつけたつもりでもスムーズにボールが転がらないでボテボテと弾んだりする。転がりが悪いためコントロールも一発で収まらない。前半、選手たちがピッチに苦しんでいる様子が見て取れた。後半は夜露で芝が濡れ始めたのでボールがスムーズに転がるようになり、日本とすればかなりやりやすくなったことは間違いなかっただろう。 後半、得点も生まれリズムもよくなったのだが、ピッチコンディションの改善、相手の疲れ、という要因に加えて日本にゲームが傾いた要素がある。羽生(No.51)の投入だ。彼の運動量の多さは並のものではないのだが、そのトップ下での動きが相手のディフェンスラインのマークのズレを生み始めた。2トップの動きを見て空いているスペースに飛び出す。それにより、相手の守備的なMFのゾーンにスペースを作り出す。そこに後ろから他の選手が飛び込んでくるというプレーが増え始めた。また田中(達)もくさびを受けて前を向ける回数が増えてきた。それもFWを追い越す動きがあるからこそボールを受けやすくなったのだ。ボールを持ってした仕事というと、先制点のCKにつながった中央突破が印象に残っているが、それ以外ではそれほど目立ったものはなかった。しかし、彼の投入がこの日の日本代表に大きな“動き”をもたらしたことは間違いない。 その後半70分にようやくゴールが生まれる。右CKをアレックスが蹴り、ニアサイドに飛び込んだ阿部がヘディングできれいに決めた。待望の先制点であった。「間違いが起こってしまうんじゃないか」と僕も心配し始めた矢先だったので、ホッとさせてくれる一発であった。結局、ロスタイムにも佐藤(寿)(No.37)がアレックスのFKに合わせ、こぼれ球を蹴りこんで2点目をあげるが、日本にとってセットプレーは本当に大きな武器だなと再認識した。イエメンがファールでしか止めることが出来なくなった終盤、ゴール前のFKがたくさんあったが、欲を言うと直接ぶち込んで欲しかった。いいキッカーがいるだけに、他国にもファールで止めることは命取りだよということを示せたら、これからの戦いに向けて大きなアドバンテージになったのではないかと思う。 それから阿部、闘莉王(No.4)の関係も面白かったので記しておきたい。前半途中から阿部が下がって3バックのような形になっていたが、後半は1人残る相手に対して坪井(No.20)と阿部で対応し、闘莉王が攻撃に参加するという形を多くとるようになった。千葉でのストヤノフ(DF=No.5)のように後ろからゲームを組み立てていくのではなく、闘莉王の場合は最前線まで上がってゴール前でアタッカーになろうとするのが特徴。特にこの日はサイドからのクロスの本数は相当な数であった。そのフィニッシャーとしてフリーになりやすい闘莉王が入っていくのだ。残念ながらそこからゴールは生まれなかったが、攻撃のひとつの形として非常に効果的だと感じた。それも代わって下がる阿部にCBとしての力があるから成立するということになるのだが。 ここまでの試合を見る限り、まだオシム監督のサッカーは見えてこない。これはまだ立ち上げたばかりのチームとしては致し方ないところである。また監督も今現在でのベストというよりも、先を見越して手を打っているように思える。この日、明らかな格下であるイエメン相手にダブルボランチの構成で臨んだ。もちろん守備的な戦術であるはずはないが、守備の安定を望んでいたことは監督のコメントからも読み取れる。いかに守備の安定を図りながら、流動的な連動性のあるオシムらしいサッカーを表現するのか。オシム監督の頭の中では、この日のゲームでサウジアラビア戦のシュミレーションをしていたのではないかと思うのだ。そういった意味でも次のサウジアラビア戦、非常に楽しみである。
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